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天才の属する所 3




 跡部の知り合いである青学レギュラーは、不二周助という。三年が引退したばかりの今では、手塚国光に次ぐ実力の持ち主と言われている。青学で天才といえば不二周助のことをさす。
 以上は跡部が言ったことだ。しかし名前を言われたところで結局は通り抜けていってしまう。3時間後にはその存在も忘れているのだろう。いいかげん跡部に付き合うのも飽きた。何のために連れて来られたのか、その理由はもうどうでも良い。さっさと帰らせてくれと切に願った。

 そう言おうかと思って横を見て、忍足はふっと息を飲んだ。見ろと言った跡部のほうが随分と真剣に見ている。不二周助を、じっと、その一呼吸も見逃すまいといった表情だ。

 この跡部をそこまで惹き付ける、なにが不二周助にあるというのだろうか。

 忍足が氷帝内で手合わせを願うのは跡部か、芥川ぐらいのものだった。芥川はあまり部活に顔を見せることがなく、来ても気だるそうにひとりでぼーっとしているだけだったが、本当にやってみたいと思うのは芥川だけかもしれない。その実力は計り知れないものだった。
 跡部はたしかに強いが、勝とうと思えばたいした困難もなく勝てるような気がした。それでもやって損をする相手ではない。跡部と試合をするのはある程度の妥協からだ。

 忍足との試合の後、跡部は必ず機嫌を悪くする。忍足が本気を出していないのだと分かっているのだ。

(そんなん、勝ってしもたらおもしろないやんか)

 不二がサーブを放った。なんら意外性のない、普通のサーブだ。スピードも、狙ったポイントもなにも。それでも隣が、くっと体を構えたのが分かった。

 やはり不二のサーブは簡単に返された。忍足にはどちらかというと相手の短髪の少年のほうが力が強そうに見えた。打球が見るからに重そうだ。

 どこか不気味であると感じる。試合が始まる前からも、始まってからも不二は笑顔で通していた。相手がレギュラーの座を掴み取ろうと必死で歯を食いしばっているのに、笑顔で返球する様は奇妙な光景だった。

 ゲームは2−1。不二が勝ってはいるが、決して圧倒的な差をつけているわけでもない。それなのに相手の表情は崖っ縁だ。メンタルですでに勝負がついてしまっている。
 結局名前も知らない彼は巻き返すことが出来ず、レギュラー相手に6−1と負けを喫した。

「どうだ、不二周助」

「どうだって、別になんも…」

 跡部がこちらを見て見やりと笑うので、少し背筋が寒くなった。

「あいつな、お前と同じ」

「……」

「本気で戦える相手がなかなかいなくて、飢えてるんだよ」

 飢えている。

 そうと言われて、初めて気付いたような気がした。
 自分は飢えているのかもしれない。強敵や、敗北を身近に感じ、迫り来る焦りと不安に。しかし、それは違うとも思う。

 そんなことはどうでもいいことだ。勝とうが負けようが、どちらでもいい。相手が弱くて詰まらないと感じたり、もっと強いやつと戦ってみたいと思う。それでもしばらくすればそれは体の中からするりと抜け落ち、あとには何も残らずただ結果が結果としてあるのみだった。
 跡部との試合中に感じるわずかな昂揚感も、すべてコートにおいて来てしまう。何度も試合をするのは思い出すためではなく、再び得るためだ。

 強敵、スリル、全て味わいたい。飢えているのだ。同時にそれはどうでもいいことだと置き去る。己の内の矛盾を感じ、しかし、それでさえも抜け落ちていく。
 例えばこの青学の天才も、飢えを満たしたいと思っているのだろうか。

 同じように天才と呼ばれる忍足は、何も感じることが出来ずにいた。跡部が執着を見せる不二周助も、明日になれば顔も思い出せないのだ。



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