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天才の属する所 6




 大粒の雨が地面を叩く。忍足の傘にもばたばたと大きな音をたてて当たり、落ちていった。
 今日は朝から雨が降っている。グラウンドやコンクリート、テニスコートにも水溜りが出来ていた。

「侑士!」

 後ろから追いかけてきたらしい向日が、体当たりをしてきた。玄関から傘を差さずに来たのか肩口に水滴が付いている。

「侑士、帰んの?」

 忍足は質問には答えずじろりと向日を睨んだ。

「…お前な、走ってくんなや。ズボン汚れたやろ」

「あ、悪ぃ」

 そう軽く謝っていても、向日はすがるような目をしていた。忍足に嫌われることを怖がっているのかもしれない。あるいは嫌われているのではないかと、懸念しているのかもしれない。
 とにかく、関東大会後の向日はいつもそんな感じだった。

「…帰んの?」

 その目を、鬱陶しいと感じる。忍足は無言で足を進めた。向日が本当に聞きたいことが何なのか、分かっているのだ。

「帰るよ」

「…部活出ないんだ」

 立ち止まったままの向日を肩越しに見た。傘の半透明のフィルタがかかっていて表情が読みづらかったが、雨が降っている上に向日は下を向いていたので、どちらにしても見えないことに変わりはなかった。

「俺らもう引退したやん」

「そうだけどっ、跡部とかも出てるし鳳だって、あのスマッシュ返し、教えてほしいって言ってたし」

 無言で雨に打たれる向日は傘を持っていなかった。色が変わってしまった制服に、髪から水滴がいくつも筋になって流れている。
 しかしそれとは全く関係なく、向日の目がすこし潤んでいた。

 大きくため息をつく。結局向日は3年間、忍足の性格を正しく把握できないままだった。部活に出たいとか出たくないとかいう話ではなく、すでにどうでも良いことなのだ。

「岳人、傘どないしたん」

「え、あ、なんか誰かにパクられたみたいで」

 歩みより、すでに無意味なことだったが傘に入れてやった。

「鳳に言うといてくれる? お前には無理やって」

「……侑士?」

「傘やるわ、じゃあな」

 柄をむりやり掴ませると、忍足はそのまま校門を出て行った。雨に濡れながら去って行くその背中さえ、向日の目には映らなかった。

 酷く冷たい声が、頭の中に響いている。


―――お前には無理


 忍足侑士は、向日の知る忍足侑士は、そんなことを言うやつだっただろうか。




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