大粒の雨が地面を叩く。忍足の傘にもばたばたと大きな音をたてて当たり、落ちていった。
今日は朝から雨が降っている。グラウンドやコンクリート、テニスコートにも水溜りが出来ていた。
「侑士!」
後ろから追いかけてきたらしい向日が、体当たりをしてきた。玄関から傘を差さずに来たのか肩口に水滴が付いている。
「侑士、帰んの?」
忍足は質問には答えずじろりと向日を睨んだ。
「…お前な、走ってくんなや。ズボン汚れたやろ」
「あ、悪ぃ」
そう軽く謝っていても、向日はすがるような目をしていた。忍足に嫌われることを怖がっているのかもしれない。あるいは嫌われているのではないかと、懸念しているのかもしれない。
とにかく、関東大会後の向日はいつもそんな感じだった。
「…帰んの?」
その目を、鬱陶しいと感じる。忍足は無言で足を進めた。向日が本当に聞きたいことが何なのか、分かっているのだ。
「帰るよ」
「…部活出ないんだ」
立ち止まったままの向日を肩越しに見た。傘の半透明のフィルタがかかっていて表情が読みづらかったが、雨が降っている上に向日は下を向いていたので、どちらにしても見えないことに変わりはなかった。
「俺らもう引退したやん」
「そうだけどっ、跡部とかも出てるし鳳だって、あのスマッシュ返し、教えてほしいって言ってたし」
無言で雨に打たれる向日は傘を持っていなかった。色が変わってしまった制服に、髪から水滴がいくつも筋になって流れている。
しかしそれとは全く関係なく、向日の目がすこし潤んでいた。
大きくため息をつく。結局向日は3年間、忍足の性格を正しく把握できないままだった。部活に出たいとか出たくないとかいう話ではなく、すでにどうでも良いことなのだ。
「岳人、傘どないしたん」
「え、あ、なんか誰かにパクられたみたいで」
歩みより、すでに無意味なことだったが傘に入れてやった。
「鳳に言うといてくれる? お前には無理やって」
「……侑士?」
「傘やるわ、じゃあな」
柄をむりやり掴ませると、忍足はそのまま校門を出て行った。雨に濡れながら去って行くその背中さえ、向日の目には映らなかった。
酷く冷たい声が、頭の中に響いている。
―――お前には無理
忍足侑士は、向日の知る忍足侑士は、そんなことを言うやつだっただろうか。
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