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天才の属する所 7




 傘を差して向日はトレーニング室へ向かった。忍足の言葉が頭を離れない。本当にあれは忍足が言ったのだろうかという気さえしてくる。
 忍足は、例えば向日が落ち込めば慰めてくれる。どうしても出来ないことがあって諦めようとしても、諦めるなと強い言葉で叱咤してくれるやつだった。

 忍足は努力の人だ。確かに体格も良く先天的に恵まれている面も多かったが、努力なくして氷帝で正レギュラーをやれるはずがない。
 向日は忍足を天才だと思ったことはなく、実際彼をそう呼ぶのは跡部だけだった。そして彼は何よりも、他人の努力を認めることができる人物だった。

 トレーニング室の扉を開けると、鳳と宍戸が筋トレをしていた。宍戸の一軍復帰を祝う忍足の姿が、視界の端にちらついた。

「わ、向日先輩びしょ濡れじゃないですか!」

「…長太郎……」

「傘持ってるのに、差さなかったんですか?」

 鳳の顔を見つめる。忍足の言葉を伝えたほうがいいのだろうか。
 タオルを持った鳳の手が止まって、向日の視線を受け止めた。

 鳳はいい奴だ。頑張ってるし先輩を立てることもできる。だったらなおさら言うことは出来ない。

「向日先輩?」

「鳳、放っておけ」

 先に着ていたらしい跡部が鳳の背後から言った。相変わらず樺地を従えて、腕を組み、偉そうに壁に寄りかかっている。

「でも、跡部先輩」

「どうせ忍足になんか言われたんだろ」

 そう言いながら鼻で笑った。
 忍足は彼を気に入っていたようだが、向日はどうしても好きになることが出来ない。面白い奴だと言っていたが、いまだに理解できない。忍足の努力を天才の一言で片付けてしまうところが気に入らない。

「タオル、俺のですけど使ってください。…喧嘩したんですか?」

 いっそ喧嘩のほうが楽だった。喧嘩なら何度もした。くだらないことで、その後笑えるようなことばかりだった。でも今回は違う。わけが分からない。忍足が分からない。忍足から拒否感や嫌悪感を感じた。

「違う、なんか、……怖かった」

「怖い?忍足先輩が?」

「うん。侑士じゃないみたいだった」

 理解できないという風に顔を見合わせる鳳と宍戸を尻目に、跡部はまた鼻で笑った。

「それが本当の忍足だ。てめぇが今まで一緒にいたやつが偽者なんだよ。あんな腹黒いやつ、めったにいないぜ」

 跡部はただひとり、忍足侑士を天才と呼ぶ人物だった。なぜ天才なのだろうか。彼ほど努力をしていた人物はいないと思う。特に青学へ偵察に行って以来、練習量が増しているように感じた。

 あるいは、忍足を本当に理解していたのは跡部ただひとりであったのかもしれない。




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