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天才の属する所 8




 不二はぼんやりと外を眺めた。フロントガラスを滑る雨をワイパーが追いかけかけて行くが、あまり追いついていない。まさに滝のような雨だった。

「いやね、視界が悪いわ」

 運転席の姉が言うように視界は最悪だった。信号機の光も、雨のカバーに隠れてはっきりしない。滑りやすくなっているうえにこの視界では、ただでさえ飛ばしがちな姉が事故を起こさないかと心配でならない。

「みんな大変そう。良かったわね周助、優しいお姉さんがいて」

 そうだね、と不二は小さく応えた。この雨では傘をさしたところであまり意味はなさそうだった。かろうじて上半身だけは守れるようだが、ズボンの色がすっかり重くなってしまっている人も多い。

「病院、人少なかったね」

「…この天気じゃ当り前よ」

 不二は、寒さに痛む手首を左手で覆った。

 氷帝との試合後、不二は手首を痛めた。治療を早くに開始したため大事には至らなかったのだが、当分ラケットは振れなかった。
ひどく恐ろしかったのを覚えている。
そしてそのこと以来、不二はぼんやりと気だるい空気に包まれたままだった。


 不二が通院する道のりに氷帝学園があった。前を通るたびに思い出すのは、昔馴染みの跡部景吾だ。先日久し振りに会った彼は、昔と変わらず意地っ張りでいい奴だった。スクールの帰りにはよく跡部と不二と裕太の3人で遊んだ。
 裕太…聖ルドルフで上手くやっているだろうか。知らないうちに彼も腕を上げた。不二の周りには、腕の立つ左利きが多いような気がする。例えば手塚に越前…。

 そこで思考は停止した。
今、青学のことを考えたくはなかった。なぜか不二は現在の青学に対し嫉妬のような感情を抱いていた。理由ははっきりしなかったが、もしかするとそれは青学の“誰か”“何か”に抱いた感情ではなく、青学テニス部そのものに抱いたものであるのかもしれない。それは1人のプレイヤーのようだ。

 ガラスを叩く雨の隙間から、氷帝学園の校舎が見えてきた。傘をさした数人の生徒。いくつかの窓から漏れる蛍光灯の光。広い敷地を通り過ぎたとき、不二の脳裏に浮かんだのは跡部ではなかった。

風や空気に身をまかせ、落ち、流れて行く。不快感を口にするもののいれば、心地よさに身を委ねるものもいる。忍足侑士は、雨のような男だった。



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