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天才の属する所 9




 彼がプレイしているところをはじめて見たとき、どうしようもない不安にかられた。恐ろしかった。あまりにも似ている、似すぎだ、不二周助と忍足侑士は。

「周助」

 不二は由美子の声に我に返った。

「大丈夫?私、ちょっと行ってくるけど、すぐ戻るから待ってて」

「あ、うん分かった」

 少し不安げな表情を残しつつ、由美子はエレベータで階上に向かって行った。このマンションに住む友人に用事があるらしい。

  薄い闇にぼんやりと視線を投げる。数台の車が地下駐車場に止まっていた。
 先日の芥川との試合。難なく勝つことができたけれど、不二にとって芥川慈郎は手塚や越前のような、越えることのできない壁だった。

「…寒い」

 手をすり合わせる。頭ははっきりしていた。
彼らは、…手塚や越前、芥川は不二には決して越えることのできない壁だ。彼らは不二がいくら努力したところで習得できない能力を持っている。彼らだけではなく青学のレギュラーや他校にいる名の通ったプレイヤーもそうだった。
 不二は全てが欲しいと思っていた。大石が持つ精密なコントロールも、桃城や河村のようなパワーも、己の他に類を見ない技術も失いたくはない。貪欲に全てを欲し続けたからこそ、彼は天才であり得たのだ。

 フロントガラスの向こうは暗い。少しずつ侵食してきているのではないかと思うほど、それはどこか圧力的だった。手首の故障はこの闇に似ている。気のせいだと分かっているのに、完治した今もまだ手首の奥にしこりを感じる。


 未だかつてこれほどまでに確かな壁を感じたことはない。恐怖を感じている。この壁は厚く、頂が見えないほどに高く、表面には傷一つ無い。どこから壊せばいいのか分からない。

 だが、これは必ず越えなければならない。手塚が不在の今、青学のナンバー1は不二であり、何より不二は『天才』であるのだから。



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